サステナブルでローカルなツーリズム

シリーズ Vol. 2 “Looking back, moving forward to a Sustainable Kyoto”

2021年8月号

 

交通網や情報網が発達し、私たちは地球上の美しい自然や文化の息づくあらゆる場所を訪れることができるようになった。多くの人々が旅をし、ある場所に足を運べるようになったことで、経済的な潤いがもたらされた地域の活性化や維持に貢献しているとも言える。その一方で、環境や社会的な視点から見れば、地域を破綻に導いていとしか映らないという、不可逆な問題も同時に発生している。極端に言えば、「(旅行が)好きすぎて、加減がわからず(その場所を)壊滅させちゃった」であろうか。コロナ禍で海外からの来訪客が途絶え、それまで観光客でにぎわっていた観光地やその周辺の人々は、大変な苦境にある。ただしもう一方では、マス・ツーリズムによる混雑や環境への負担から解放され、安堵のため息をついている人もいるというのも、皮肉な事実だ。

想像してみてほしい。2019年、人口150万人の京都市に、月平均500万人の観光客が訪れ、年間にして5400万人を記録した。このうち海外からの観光客は半数を占め、2000年と比較してその数は8倍に増えている。他方、京都を訪れた日本人の観光客数は2016年以降、毎月減少しており、この3年間で12%の減少となった。ある調査によると、この減少の理由の一つは、京都の町が常に混雑状態にあり、観光を楽しめないと感じる人が増えたことにあるという。初めて京都を訪れた外国人旅行者が、京都の有名観光地にこぞって向かい、そこに向かうバスや電車、地下鉄は満員状態。このような様子は、多くの人が京都の魅力とイメージする「静けさ」や「優美」とは相反するものであり、外国人よりも京都に対する特別な憧れを持つ日本人にとっては、京都がもはや、魅力的な観光地には映らなくなり始めているのかもしれない。

気候変動の影響が日々地球を脅かす中、オーバーツーリズムは、大量消費の問題と並ぶ、私たちの地球環境が直面している複雑かつ、至急対応すべき課題の一つだ。現代の世界のシステムはあらかた資本主義的であり、旅行業界も例外ではなく、事業の成長や拡大ばかりに焦点が当たり、その結果起こる影響については、ほとんど、あるいはまったく考えられてこなかった。アルプス山脈や人気のビーチ、ヨセミテやイエローストーンなどのアメリカの有名な国立公園などの世界有数の観光地では、ハイキングや滞在できる一日の訪問者の数を予約で制限したり、入場料を上げたり、自家用車での移動を禁止し、代わりに電気バスを導入するなど、すでにオーバーツーリズムを制御する対応が始まっている。では、ヴェネツィアやオックスフォード、京都などの観光都市で、このような対策を行うにはどうすればよいのだろうか?

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まず、「オーバーツーリズム」というネガティブに聞こえる言葉を、「レスポンシブル(責任ある)」「サステナブル(持続可能な)」「エコツーリズム」というようなポジティブな言葉に置き換え、それを意識した旅行を目指すことで、旅行者自身にとっても、訪れる先の人々や場所にとっても、より楽しいく、負荷の少ない体験をしてもらえるのではないだろうか。

ここでのキーとなるのが、サステナブルな行動に欠かせない「ローカル(地元)」という概念だ。地元の小さなゲストハウスやレストランに足を運んだり、地元のツアーガイドを雇ったりすることで、経済的還元をその土地に与えられるだけでなく、その土地の人々やコミュニティと出会い、交流する機会も得られる。受け入れる側にも、「どこかから来た外国人観光客」ではなく「XXから来てくれた〇〇さん」と、一人の人として覚えてもらえるだろう。

 
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自転車や徒歩での移動は道路の混雑を緩和できるし、地域への負担も減る。日本への到着時や出発時にスーツケースなどの大きな荷物があるときは、バスや電車ではなくタクシーを利用することも有効な手段だ。観光のピークシーズンを避ければ、比較的物価も安く、現地のインフラへの負担も少なくて済み、その分、その土地の人と触れ合ったり、混雑していない場所を楽しむ余裕も生まれるだろう。有名な観光スポットももちろん外しがたいが、そういうところからちょっと離れて、京都を囲む山や町に出かけ、日本の里山風景を垣間見てみるのはどうだろう?

京都を囲む東の山々を越え、ローカル電車で35分ほど行くと、日本最大の湖で、世界でも10本の指に入る古湖、琵琶湖が広がる。2014年、川口洋美さんを代表とする小さな体験型ツアー会社「Tour de Lac Biwa」が風光明媚な琵琶湖の西岸に生まれた。「静かな琵琶湖の湖畔で、スローライフ、スローフード、スローツアーを提供する」というコンセプトのもと、英語を話すプロのツアーコンダクターを務める5人の日本人女性が、これまでにアメリカやイギリス、ヨーロッパを中心に30カ国以上から2100人以上の旅行者に、日本の昔ながらの山村での暮らしや文化、生活様式を紹介してきた。

「Tour de Lac Biwaでは、受け入れる側である現地の人々が本当に喜んでくれる規模のツアーしか企画していません。プライベートか少人数のツアーのみをご用意しています」と洋美さん。「私たちがツアーを企画するときに心がけているのは、地域の活性化です。観光でお客様が訪れる場所は、過疎化や高齢化が進んでいる地域がほとんどです。Covid-19以後の時代の観光は、こうした形をスタンダードにすることで、オーバーツーリズムの問題を解決できるのではないかと考えています」と話す。

Tour de Lac Biwaの1日または半日ツアーは、美しい滋賀の田園風景の中、本物の日本の生活文化に出会えるユニークなものばかり。「Farm to table lunch cooking experience(農業体験&日本食お料理教室)」、「Time for Tea(日本茶を楽しむ)」、「Finding peace of mind(心の平穏を探す)」、「Pedal or Paddle Into Nature(自然の中をサイクリング/パドリング)」、「A Touch of Culture(文化に触れる)」といった魅力満載なコンテンツが揃う。杵と臼を使った餅つき体験やおいしい鶏肉のすき焼きランチ、100年以上の歴史を持つ鬼瓦職人の工房見学やおばあちゃんと一緒に家庭料理など、まさに「ローカル」な体験ばかりだ。肉体的にも精神的にも世界で最も厳しいと言われる比叡山の千日回峰行を満行した大阿闍梨と一緒に、霊験あらたかな行者道を歩くなど、一生思い出に残ること間違いないツアーが盛りだくさん。

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Covid-19は、私たち全員に、これまで「当たり前」と思ってきた持続不可能な生活、仕事、旅行の方法を見直す機会を与えてくれた。私たちの目線や意識が変わることで、みんなが恩恵を受けられる、より創造的で、ダイナミックで、シンプルで、コミュニティや家族に根ざした、スローでエコロジカルなパラダイムへ進化することができる。クルーズ船、パッケージツアー、観光リゾートなどの旅行形態は、限られた数の人々に楽しみや思い出を生むが、訪れた先の地域への貢献はほとんど生まれない。訪れる場所や土地や、そこに住む人々の生活の質や経済、周辺環境の破壊など、まるで「部屋の中で象を飼う」かのようだ。今を生きる私たち自身のために、そして子供たちの未来と母なる地球のために、「素敵な休日」の過ごし方を考えてみてはどうだろうか。

 
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Text by Chris Summerville

Chris has been teaching about Sustainability and Environmental Education at Japanese universities for thirty years. He lives on the shores of Lake Biwa with his family and loves bicycling, camping, and actively trying to share his ideas on learning from Japan’s past to help move towards a more community-based and spiritually ecological future paradigm.

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