畑からテーブルへ :Midori Farm 主宰 Chuck Kayser さんにインタビュー

シリーズ Vol. 1 “Looking back, moving forward to a Sustainable Kyoto”

2021年3月号

 
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京都を訪れる多くの観光客が古都に期待するものと言えば、歴史情緒あふれる町並みや、荘厳な社寺仏閣、そして「京料理」に代表される深い食文化だろう。海外からの観光客の増加と共に、英語のメニューを用意するお店も多く、小さなお店にも入りやすくなった。のれんや扉をくぐれば、お店の人や常連さんがおすすめを教えてくれたり、楽しい会話が始まったり。

食べ物についてはさほど評価が高くないイギリスという国からやってきた私は、いつも日本人の妻が食卓に並べてくれる季節の料理が楽しみで仕方ない。夏には冷たい蕎麦、秋にはサツマイモの天ぷら、そして冬にはおなかから温めてくれるおでんなど、数えだしたらキリがない。

ところで、食卓に並ぶ食べ物が、どこから来て、どのように作られ、誰が作ったものかを考えてみたことはあるだろうか?他国と境界を接しない島国である日本の歴史の長さは、人々が、オーガニックな季節の野菜や果物、魚介などの日本国内で作られた食べ物だけで生活をしてきた歴史でもある。1960年代まで、日本の食糧自給率は79%もあった。

京都の町中でも、プランターでの家庭菜園を見かけたり、少し街中から離れれば田畑が広がる風景を目にしたりすることができる。畑をしていたり、近くに住む祖父母が、都会に住む子供や孫たちに新鮮な野菜を箱にいっぱい詰めて送るのもおなじみの風景だ。野菜、果物、米、茶、酒など、どの産地で何が美味しいか、名産かという話はしょっちゅう日々の会話にのぼるし、駅ではその土地の味を詰め込んだ「駅弁」が大人気だ。つまり、日本の人々の職に関する意欲はとても高い。

その一方、この60年ほどの間で日本の食糧自給率は35%程度まで下落してしまった。また、農業従事者の65%が65歳以上の高齢者だという。この10年ほどの間だけで、個人が営む農家の数は1/3まで減少する一方で、単一の作物に特化した企業が経営する農場は240%も増加した。日本は現在、農薬使用量で世界第9位を占め、国土が最も狭い国の一つであるという事実を考慮すると、汚染の集中度は非常に高いと言わざるをえない。

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耕作放棄地が年々増加する中、これらの問題を解決するにはどうしたらよいのだろうか。Midori Farmを主宰するチャック・カイザーさんは、「有機農法で農地や農村を再生する」というメッセージを、10年以上前から「種まき」してきた人だ。Midori Farmは、京都から北へ1時間、滋賀県の山間部にある朽木(くつき)という小さな村にある。Midori Farmは、そのミッションをこう掲げている。「私たちは、日本の健康と環境を回復することを目的に、伝統的な食のシステムを復活させることを目指します。その土地ごとの農家が何世代にも渡って試行錯誤の上に培ってきた技術に加え、持続可能な農業のための近代的な手法も導入します」。

この壮大なミッションを実現するには、多大な時間と労力がかかるにもかかわらず、Midori Farmのウェブサイトには、年齢や国籍、文化を問わずたくさんの人々が、日本の昔ながらの里山や田舎の環境で一緒に過ごすことで、喜びを感じ、楽しんでいる様子を紹介している。

1950年代ごろまでの日本の農村では、このような生活が当然として営まれていた。地域の人々が協力して、共に畑を作り、維持し、収穫して分け合い、自らが生きる環境を深く知り、尊重しながら生きていた。

このような自然の恵みと脅威に対する知恵は、自然と人間が調和した「里山」と呼ばれる農法という形になって世代から世代へ受け継がれてきました。しかし、悲しいことながら、全体との調和を目指す里山の暮らしは少数派となっている。日本の食品に占める有機と認証されたものの割合は0.23%、農家の85%は農業以外の職業に就いており、収入のほとんどを農業以外の活動で得ているのが現実だ。

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では、観光客や地元の人々が、日本の食文化の復興に参加するにはどうすればよいのだろうか? 自分で畑を耕す時間がないという人は、チャックさんが開く「農場見学ツアー」に参加して、自然を楽しみ、野菜と触れ合ってみてはどうだろう。また、畑のシーズン中(3月〜12月)には、Workawayを通じて、宿泊や食事と引き換えに旅行者がボランティアとして農作業を手伝うこともできる。

 

ファームデイ、キャンプアウト、クッキングワークショップ、スピーカー&ミュージックナイトなど、Midori Farmと京都市内の両方で随時開催されるイベントに参加するのも楽しいだろう。京都市内に暮らす人には、Midori Farmの新鮮でおいしい野菜を、畑での仕事帰りのチャックさん自身が定期的に届けてくれるサービスもあるというからぜひ利用してみてほしい。「農家の顔が見える食べ物」というスローガンの元、農家から直接食品を購入する「提携(cooperation)」システムを活用するのもいいだろう。

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詳しくは、Midori FarmのウェブサイトFacebookInstagramから。あなたが京都に数日滞在するだけの旅行者だとしても、美味しい「京の味」を提供している小さなお店を選んだり、買い物をするときに「オーガニック」と表示されているものを選ぶだけでも、「自然との人間が調和した里山の暮らし」に参加することになる。京都での時間を、そういう意識でゆっくり楽しんでほしい。

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