KVG からのメッセージ

人々が愛する京都は、今日も変わらずここにある

2021年3月号

 

行き先の歴史や観光スポットの下調べをして、ホテルを吟味して、ローカルの味やおみやげをリサーチして、いざ、荷物を詰めて駅や空港へ! 旅行は、そう頻繁に、誰もが好きなときに、好きなところへ出かけられるものではない。ましてや、その行き先が、海や国境を越えた遥か彼方のどこかの場合、さらにそのハードルは高くなる。でも少なくとも、出かけるかどうかを決める自由は、自分にあると思っていた。旅に出かける自由を握っているのは、自分だと信じて疑わなかった。その自由がなくなるなんてことが、しかも、ほとんど世界中の人々に同時に起こるなんてことがあるなんて、誰が想像できただろうか。

京都の夏の風物詩、祇園祭の起源は、平安時代に疫病退散を希求した人々の思いにさかのぼる。1200年を超える、都としての長い歴史の中で、京都はたびたび疫病や時代ごとの大騒動に脅かされ、傷ついてきた。そして、その数と同じだけ、危機や消沈を乗り越えてきた実績と自信がある。

そして2020年。ほんの少し前まで、日本全国、世界各国からの世界中からの観光客を迎え入れ、楽しませ、感動を呈してきた京都。ちょっと賑わいが過ぎる、という声が聞こえてくるほどまでに、人の活気にあふれていた京都。それが一変、京都から人が消え、街は静まり返った。古都の歴史の一ページに、人の往来が減り、ちょっとばかり街の元気がなくなったという時間の帯が今も続いている。

_DSC5863.JPG

しかし、京都というこの町は、何も変わっていない。京都の歴史に、COVID-19 の「前」と「後」という区分は記されないだろう。一方で、私たち人間は、未知の脅威と隣り合わせにある生活が始まって一年以上もの時間が流れた。今も、世界中が、不安や不便や悲しみを経験している真っ只中を、私たちは共に経験していっているところだ。それは私たちに、日々の暮らしや、もっと言うならば、この世界に対して、もっと心を傾け、自らの行動に責任を持ち、サステナブルになれるのではないか、という問いについて考えるきっかけをくれたように思う。

各分野の最前線で全力を尽くしてくれている人々のおかげで、希望や明るさを感じられる展望や情報を耳にすることも増えてきた。しかし、まだまだ楽観的になるには時期尚早だ。でもそろそろ、少しぐらい明るく、楽しい予定や未来に気持ちを巡らせても良いではないか。

静謐な日本庭園、荘厳にあふれる神社、熱気あふれる祭事、うならずにはいられない美味の数々、代々受け継がれる職人が生み出す工芸美、伝統を重んじ、伝統と共に生きながら、イノベーションを生み出すことを止めない街の人々―。世界中の人々が恋しがるものが、京都には山ほどある。京都は、何も変わっていない。私たちが新しい生活スタイルを身に着け、実践し、自分や周囲の人々の安全に気を配りさえすれば、京都は訪れる人々をいつでも迎えてくれるだろう。

自分の自由で行き先を決め、移動し、その土地の人、味、文化に出会うという自由を楽しめる日は必ず戻ってくるとKYOTO VISITOR’S GUIDEは疑わない。古都の歴史に、またひとつ、大きな困難を乗り越えた、という一層が重なったのだ、と思える日を、私たちは待ちわびている。

Next
Next

木と語り合い、木の声を聴く